家族へと向かう旅



・7月3日金曜日
 先月の頭に、母の還暦を兄弟で祝うために帰省した。
 その朝僕は、妻を駅まで送り、そのまま海老名インターから東名高速に乗って西へ向かった。名古屋の隣にある春日井市が僕の故郷だ。車ですこし遠出するときは、その時の気分で何枚かのCDを旅のお供に持っていく。その選択が運転中の気分にぴったりくると、そのドライブは一気に気持ちがよくなる。そしてその朝はまさにそんな風に始まった。名古屋の友人のバンド、ツクモクの音楽を聴きながら、「到着したら彼の喫茶店へ行って鉄ナポを食べよう」と思っていた。高速へ乗ってからはスーパーカーの一番好きなアルバム『Futurama』を大音量でセットした。地元で写真学校へ通っていた時代に一番よく聴いていたバンドだ。そう、家を出る前から、今回の旅は自分の過去への、故郷への、そして家族へと向かう旅だという気分でいたのだ。
 快晴の初夏のドライブ、いや季節は問わずだけれど、僕は一人で運転するときは大体窓を全開にする。去年まで乗っていた車は兄から譲り受けたもので、ダッシュボードの上に大きな茶色い鳥の羽根があった。それ以降、今の車に乗り換えてからも同じようにダッシュボードの片隅に置いていて、すこし気に入っていた。なんとなくそこに兄の意思を継いでいるような気持ちも、ささやかに持っていたかもしれない。家族に会いに行く帰省でもあったし、風にそわそわ揺れている羽根を横目に見ながら、兄弟のことをすこし考えていた。去年から山で古民家を借りて暮らし始めた兄 タカの家にも、翌日行くことができたらいいなと思った。そしてそれまで何の鳥の羽根なのか考えたことがなかったけれど、もしかしたら鷹かもしれないと勝手に納得した。
 ゴオゴオと音を立て続ける風をうるさいとは思わなかった。そして音楽に乗って車のスピードを上げたとき、その風を捉えたダッシュボードの上の羽根はふわりと宙に浮き、助手席側の窓から一瞬で外へ飛び立って行った。その瞬間はショックで思わず「あっ!」と声が出たが、次の瞬間にはなんとなく清々しさを感じている自分がいた。変な言い方かもしれないけれど、気に入っていたその羽根が消えてしまったことへのショックはその時もう感じなかった。別の新鮮な何かが吹き込んできたような気がしていた。
 
(つづく)