誰かのお決まりコース



12月27日土曜日
 夜明け前に起き上がって温泉に入り、部屋で入稿ギリギリのデータをつくった。こんなところに仕事を残して持って来た自分が情けなかった。チェックアウトを済ませてからまたフラッと歩き、近くの100円で入れる温泉に入った。福岡の友人がおすすめしてくれたその温泉がとても好く、一緒に入っていた常連のおじいさんもなかなか画になっていた。ぼくが先に着替えて出るとき、「また会いましょうー」と言って手を振ってくれたのが可笑しかった。外に出たところで一人のおばあさんがベンチに腰掛けていて、ぼくもそこに腰掛けて靴ひもを結んだ。数カ月かけてその周辺の温泉をすべて巡り、その末にここの浴場の会員になった、という話を聞いて嬉しくなった。別府を出る前に最後に選んだ温泉だった。
 その前日も別府に来る前に石仏を観に行ったのだが、その日も福岡に帰る前に一カ所また石仏を観に車を走らせた。石彫をしている妻の希望で行ったのだが、思いのほかそのどちらもとてもよくて、ぼくも何かしら感じるものがあった。
 福岡で過ごす最後の夜は友人夫婦とまた合流し、お決まりのように遅くまで屋台で飲み、ラーメンを食べた。ぼくはおでんは大根が一番好きだ。そして、特に誰にも言わなかったのだが、その屋台で食べた大根のおでんは、もしかしたら今までで一番美味しかったかもしれない。

硫黄の匂いと子どもの頃の記憶



12月26日金曜日
 レンタカーを借り、すこし足を伸ばして別府へ行った。至る所から湯煙が立ち上る景色に興奮し、宿に荷物を降ろし、外を歩いて回る。その先を進んで行けば見晴らしのいい場所へ通じている気がして歩き続けていると、犬の散歩をしていた地元のおばあちゃんが「この先に行っても何もないし、暗くなるから戻った方がいい」と教えてくれた。引き返してスーパーに寄って食材を買い、宿に戻って温泉に入った。その地域の名物でもある「地獄蒸し」と呼ばれる、温泉の蒸気を利用した蒸し料理を作った。野菜や卵やウインナーを蒸しただけなので料理とは呼べない程度だが、情緒ある夕飯をそれなりに楽しんだ。夜中にひとりでもう一度貸し切り状態の温泉に入り、部屋で安いワインをひと口飲んで寝た。ベランダに出していたワインは冷えていて美味しかった。ぼくは赤ワインでも冷えているのが好きだ。それと、温泉の硫黄の匂いも嫌いじゃない。子どもの頃、夏に汗疹ができると、お風呂でムトウハップという黄色い液体を使っていた記憶が、その匂いによって思い出されるのだ。

深い感銘を受けました



12月25日木曜日
 夕方、羽田空港の滑走路を眺めながらカレーライスを食べた。初めての福岡、というより初めての九州半島上陸で、おまけに初対面の妻の友人夫婦を訪ねる旅行だった。友人宅へ向かう車内で、街のつくりが地元名古屋に似ているなと思った。美味しいご馳走とお酒で迎えられ、気分よくワインが進む。その夫婦との出会い、そして今回の福岡滞在中にその旦那さんから聞く話は、ぼくのこれから先のことに大きく影響するだろうと、感覚的に思っていた。『風立ちぬ』を観てからぼくは割とその言葉を使いがちなのだが、その夜は確かに「深い感銘を受けた」のだった。そして、その後二日間の旅行のこと以上に、家に帰ってから、そして年が明けてからの新しい暮らしという、果てしない道が目の前に開けた気がした。沸かしてくれたお風呂には入らず眠ってしまった。

街の明かりを家に持ち帰る

12月24日水曜日
 夕方から街へ出て、クリスマスイブのきらきらした雰囲気を横目に、と言いながら自分もすこしばかり楽しんだ。町田駅では待ち合わせなどに使いやすい開けたスペースがあり、そこでは普段からよくライブをする若いミュージシャンたちを見掛ける。足を止めて聴く人は少なく自分もまたその一人だが、その日はジャズバンドがきもちよくクリスマスナンバーを演奏し続けていて、ニコニコしながら聴いている人々も多く、暖かい光景が見えた。といってもぼくは足を止めるまではせず、いつもよりすこしその演奏を聴きながらゆっくり歩いた。街には長居せず帰宅し、ぼくらも多少浮かれた気分で夕飯をつくった。

親孝行とは言えない程度の 2

12月23日火曜日
 母親は特に行きたい場所やしたいことなどの希望は無いと言った。海辺の町へ出掛け、ぼくらの行きたい美術館やお店を周り、すぐに夜になった。そして新幹線に乗り換えやすい駅まで送って見送った。楽しませるというよりも、自分たちの用事に付き合わせたと言った方がいいような一日。「素敵な一日だった」という喜びのメールが届き、こんなのでよかったのかなという気分。心のどこかに、もう少し待ってて欲しい、という気持ちが残る。目を細めてすこし先の未来を見ようとする。

親孝行とは言えない程度の


12月22日月曜日
 夕方、愛知から母親が初めて家に遊びに来た。駅でピックアップし、家に荷物を降ろすと、コーヒーが飲みたいというので淹れた。いつものように大袈裟なほど、ぼくが淹れたコーヒーは美味しい美味しいと言って飲んでいた。実家に暮らしていた学生時代、母親の仕事の帰りが遅い日がよくあって、もう日付が変わる頃にコーヒーを淹れて二人で飲むという習慣があった。
 特に家ですることもないので、母を連れて散歩に出たかった。日が暮れはじめてきたので、コーヒーをすこし急いで飲み干し外へ出る。坂の多い近所の道を歩き、近くの公園まで行った。もうその時間には陽は向こうの山の裏側に沈んでいて、控えめな夕焼けだけが残っていた。公園の中の丘の上まで歩いて、すこしの間向こうの景色を眺めたりしてまた引き返す。散歩の道中、すれ違う人に小声で「こんばんは〜」という母の声が何度か聞こえた。そういえば実家の周りで散歩をしていた時は、ぼくもすれ違う人と挨拶を交わしていたが、いつからかその習慣がほとんどなくなっていることに気付いた。
 夜は仕事帰りの妻を拾って温泉に。そして帰ってから部屋でビールとホットワインを飲んだ。母親は上機嫌で、ひとまず今日はこれでいいのかなという気分。

年末の来客

 せめて次の写真展が始まるまでは毎日書こうと思っていたのだがうまくいかない。頭の隅には日記を書くことへの意識は一応持ち続けてはいたのだが、どうもその時間をとれずに日々が過ぎた。別に忙しかった訳ではないのに。それを立て直すつもりで、すこし遡って書いてみようと思う。

12月21日日曜日
 最近は、特に12月は来客が多い。この日は今年から仲良くしている友人カップルが遊びに来る予定だったが、急な仕事で来れなくなってしまった。その代わりに、タイミングよく妻の幼なじみの友人がそのお母さんと一緒に遊びに来てくれた。ぼくは朝から頭痛で寝込んでいたのだが、夕方、下の階からコーヒーのいい香りが登ってくるころには楽になって来てやっと動き出した。皆のもとに顔を出すとコーヒーはもう残っていなかったが、休日の夕方らしいゆっくりした時間が流れていた。友人のお母さんがいるというのもなかなか無い光景で、けれどそれもまた落ち着いた雰囲気を生み出していたのだと思う。日が暮れてから二人は家を後にし、ぼくはコーヒーを淹れて、手土産でいただいたケーキを食べた。

それにしてもたくさんの道

 昨日は雨の中、黒い革靴を買いに行った。実家に黒い革靴を置いて来て以来、ずっと持たずに来た。葬式などの時に茶色いカジュアルな革靴を履いて行くしかなく、すこし恥ずかしさを感じたことがあった。それと就職活動のようなことをし始めたので、このタイミングで用意したという訳だ。買ったと言っても安くて適当なものを選んだだけだが、玄関にあることですこし安心感がある。そんなもので感じる安心感というものを疑いながら。
 一昨日はいい出会いが続いた。一日に何人もの興味ある人々と知り合える機会はあまりない。熱燗を一緒に飲んだ友人のうれしそうな顔が記憶に残る。そして、となりでそんな彼をうれしそうに見守る優しい彼女の顔も。
 専門学校を卒業した頃、「それぞれ進む道の先で、また会える日まで」と似合わない臭い台詞をメールしてくれた友人がいた。なかなか連絡がつかない彼のことを何故か思い出している。それにしてもたくさんの道があるものだ。

陽当たりのよい机

 自宅の一階にあるぼくの暗室兼作業部屋は陽当たりが悪くこの時期になると冷えるので、他で出来る作業は他の部屋へ行ってやるようになる。二階のリビングと呼んでいる部屋は陽当たりがよく、晴れている昼間は冬でも暖かい。部屋の角にひとつ机があり、普段ぼくはあまり使わないのだが、今日は珍しくその机に向かって一日を過ごした。その斜め前に大きな窓があり、外には庭の一部と大家さんの大きな家、そして大家さんの家に植わっているいくつかの大木が見える。八重桜の木以外は何の木か知らない。そういえばあまりちゃんと見たことが無いし、もっと言えば自分の庭の木々すら思うように管理できていない。それでも、今日みたいな青空が広がる昼間、その水色と赤やオレンジ、そして常緑樹の緑が窓の外に見えると、すこしばかり見とれることだってあるのだ。そんな景色をiPhoneで写真に撮ってもどうにもうまく映らなかった。風呂で温まった体も冷えはじめてきた今はもう夜中の一時で、やっぱり二階のその机に向かっている。

PASSING THROUGH



"PASSING THROUGH"
Photos and Texts by Atsushi Sugie

日時|2015.1.10sat - 18sun  10:30 -19:30  ※木曜定休 
場所|LOCAL (眼鏡店) http://local-optical.com/
   神奈川県横浜市青葉区美しが丘1-10-8

[Opening Party + poetry reading]
2015.1.10sat  20:00 - 22:00|¥500 (ドリンク+Zine1冊付)
展示写真に関連した文章・詩の朗読も行います。
-----------------------------------------------------------------------------------
 朝晩はずいぶんと冷えてきました。各地の山の方に暮らす友人たちのところではもう雪が降り始めているようで、こちらもこちらのペースで、しっかりと冬になっています。最近の生活の中で一番それを感じる時は朝のゴミ出しです。昨日の重たい雲の一日から一転、今日は気持ちいい陽気で、先日泊まりに来た友人に使ってもらっていた布団を干し、朝はすこしだけ本を読み、暗室に入りました。せっかくの晴れなのに、という気もありますが、晴れの昼間から暗室に入って好きな音楽を聴きながらプリントするのも好きです。暗室内には水道が無いので水洗は風呂場へ運ぶのですが、暗室の引き戸を開ける時の、明るい光が広がる瞬間が何とも言い難い感覚なのです。

 前回の展示からもう一年近く経ちます。正確には"DON'T SING ANOTHER SONG"の展示がありましたが、あれは三社の企画だったので、自分自身の作品での個展という意味では約一年ぶりです。前回の"MAYBE AMERICANS+"を展示させていただいたTroubadourに続き、場所は横浜たまプラーザです。Troubadourでのイベントで出会った矢田さんが去年オープンさせた、LOCALという眼鏡店で写真を展示させていただきます。ご縁ですね。出会ってからは自然と親交が深まり、ポスターを飾ってくれたりオリジナルの眼鏡クロスをつくってもらったり、度々店の裏にある喫茶店で一緒にコーヒーを飲んできました。まだ一年の付き合いですが今では善き先輩というか、アニキのような存在のひとりです。
 今回の展示はLOCALの雰囲気にも合うように、二年前に旅行したアメリカのいくつかの街と、学生時代にパリで撮った写真を展示します。過去に撮影したものですが、すべて今回初めて展示する写真たちです。
 そして初日1月10日は20時からオープニングパーティーを行います。500円だけカンパをいただきますが、ドリンクとおつまみ、新作のZineを用意して待っています。折をみて文章・詩の朗読もします。ぜひ新年のお出掛け気分で、たまプラーザまで足を伸ばしていただけたら幸いです。きっと今まであまり出会ったことのない眼鏡店だと思います。ぼくはそうでした。眼鏡も気になる方はすこし早めに、通常営業の閉店19時半までに来ていただければ楽しさも倍増するんじゃないでしょうか。LOCAL裏の喫茶店は今名前をど忘れしてしまいましたがおすすめですし、駅の反対側へ歩いて行けばTroubadourがあります。新年早々の冬の一日を楽しんでいただけますように。どうぞよろしくお願いします。