歩いても 歩いても

  昨晩、映画「歩いても 歩いても」をDVDで観た。もう何度観たかわからないくらい観てきた映画だ。個人的な理由はすこし思い付くが、昨晩の鑑賞が今までで一番心にしっくりと入ってきた。初めて見たのは専門学生の頃だったと思う。あの頃は時間はたっぷりとあったのにそんなに制作に夢中になるでもなく、映画館へよく通っていた。といってもこの映画はDVDのレンタルだったか。特に大きな感動があった訳ではなく、ただ静かに何かが残る。それは初めて観た時も今も変わらない。きっとこれからも同じだと思う。
 専門学生当時、実家で一緒に暮らしていたおばあちゃん、すゞ子さんを撮影して写真集を作り、それを卒業制作のひとつとした。(それにすこし触れた過去の日記) 昨晩映画を見終えたとき、僕はその写真集を思い出し、そしてそれを作ることができてよかった、ということを思っていた。「歩いても 歩いても」から、もうすこし言うと是枝監督の映画から受けた影響は大きくて、それが無ければその写真の撮り方や写真集の作り方は違ったものになっていたはずだ。更に、僕がそのおばあちゃんの写真を見返す時に一緒にゴンチチの音楽を流すことは、はっきり言って百パーセント映画に影響されている。それ以来僕はゴンチチが大好きになった。
 間もなく梅雨が明ける。僕は秋生まれで秋が好きだし、秋が一番好きと言いたい気持ちがどこかにあるが、やっぱり夏本番が来るとワクワクしてくる。どこへ行こう、何をして遊ぼう。その映画はそんな浮き足立つ気分は描いていないが、それでも僕はそこに見える「日本の夏」にも、同じようにどうしても惹かれてしまう。いつも適当に済ませてしまったり、行けるのに行かないことだってあるお墓参り。なかなかお盆に合わせて帰ったりするのは難しいが、せめて今度実家へ帰るときは、今までよりもすこし長めに時間をとって挨拶してみようと思う。
 
 おばあちゃんの写真をウェブサイトにもアップしました。よければ観てみてください。ゴンチチを流しながらぜひ。






Lonesome Strings and Mari Nakamura, July 16th







 Lonesome Strings and Mari Nakamuraのライブを観た。この7月でベース松永孝義さんが亡くなってから2年が経つが、僕がこのバンドを知ったのはその後だった。アメリカ旅行中に、日本でラジオを聴いていた相方が教えてくれたのだった。僕はあっという間に大好きになり、旅行中もよくYouTubeで聴いていた。帰国して約1か月後に決まった名古屋での個展のクロージングに、Lonesome Stringsがライブをしに来てくれるのが決まったときの気持ちは、彼らの音楽を知っている人ならば容易に想像できるだろう。(その時はベース無しの、初めての3人編成でのライブだった)
 先日のライブに話を戻すと、感想を述べることは下手なので簡単な表現だが、至福の時間を過ごした。聴きながら、間違いなく今現在の僕の一番好きなバンドだと感じた。そして同時にもうひとつ感じていたことがあった。ステージ上で演奏をするメンバーを観ながら、その格好よさに対して「悔しさ」のようなものを感じている自分がいたのだ。憧れのミュージシャンを前にしてそんなことはおこがましい話なのだが、それはすこし前に、名古屋の友人でもありツクモクなどのバンドで活動している角田健太くんが東京へ来ていたライブでも感じたことだった。悔しさを感じたところで何ができるだろうか。僕は楽器は演奏できないし、ステージに立つとしたら、朗読くらいか。けれど今までに何度か朗読をしたと言ってもその出来は、それこそ恥ずかしいものだった......。ライブを観ながらそんなことを考えていたのだが、結局思い至ったのは、好きな人たちとは写真で何かしら関わっていたいということ。ライブ中の、そしてライブ中でなくても、自分が好きな人が格好いいところを撮っていたい。できれば透明人間になって誰にも、本人にも気付かれないように撮っていたい。その場で同じ舞台に一緒に立つことはできないが、僕にはそのときを残すことができるんだなと、写真を撮る人間なので当たり前のことなのだが、改めてそんなことを感じた。後でそれを見てもらえたときに彼らに認めてもらえたら、それこそ本望だ。
 こんなことを書きながら、当日カメラを持って行っていなかったなんて付け加えるのは情けないが、きっと持って行っていたとしても撮れなかった。名古屋のブラジルコーヒーのようなホームとも呼べる場所では撮影もしやすいが、なかなか他の場所では気を遣う。ただあまりガツガツするのも僕のやり方ではないので、雰囲気を伺いながらパシャりと収めていけたらと思う。
 先のことはわからないが、こうして格好いい人たちの仕事ぶりを見ると、すこしだけ先の方まで光が灯されるような感覚を覚える。本当にいいライブだった。だんだんと去年4月の記憶は現実味が薄れていくけれど、そこでわずかに出来はじめた繋がりは、たしかに僕を勇気付けてくれている。


FIND RANGERS CAMERA CLUB 3rd issue




Pictures from Book & Jog Gallery web site.

 4月に、日本へ遊びに来ていたサンフランシスコの友人カーソンの事をここにも書いたが、彼はFIND RANGERS CAMERA CLUBという、フィルム写真家団体のようなものを主宰している。僕はこれまであまりグループ展やグループで行う活動には消極的だった。けれど彼らの'Only Films'というスタンスをはじめ、ロゴマークやウェブに投稿される写真はセンスがよく、ただの同じ趣味を持つ者たちのグループ活動というよりも洗練された印象を受けていた。これまでに彼らは2度ZINEを制作し、それに合わせてサンフランシスコのカーソンのギャラリーBook & Job Galleryで展示を行ってきた。そんなことをパソコンやiPhoneの画面上で眺めているうちに、自然と自分も彼らに仲間入りしたいという気持ちになっていて、4月に彼と会った時に「今度のFind RangersのZINEは僕も応募するよ」と伝えた。彼らのZINEは公募で集まってきた写真から採用作品を選考するスタイルだ。
 先週末から、その第3回目のZINEのリリースと展示がBook & Job Galleryで行われている。ちょうど彼がギャラリーを初めて2周年記念ということも重なり、初日のオープニングは大繁盛だったようで、何冊刷っていたのか知らないがZINEも売り切れたという。おかげさまで僕の写真も採用してくれた。気に入ってくれたのか、大きくプリントをしてギャラリーのメインの壁面中央あたりに展示してくれていてうれしい。それに今回は200を超えるたくさんの応募があったらしく、ZINEもコピー紙のホチキス留めでなくてちゃんとした本になっているというか、Photo Bookと呼べる仕上がりでとてもいい感じ。手元に届くのが待ち遠しい。またすぐに刷り直すようだし、通販でも購入できるようなので気になる方はぜひチェックしてみてください。
 という訳で晴れて僕も'Ranger'の仲間入り。離れていてもこうして色々と共有していけると楽しく、刺激を感じていられる。カーソンありがとう、そしてギャラリー2周年おめでとう。

Thanks Carson, and congrats on the 2nd anniversary of your gallery!

THAT SUMMER AND THIS SUMMER






 夏が来ると毎年、かつて自分が過ごしたいくつかの夏を思い出す。そのほとんどは旅にまつわる話で、僕の中では夏は旅に出る季節だった。ただただ時間だけならつくり出すことができる、そんないくつかの夏を過ごして来たのだった。バカっぽい考えだが、日に焼けた肌の色はその夏をどれだけ楽しんでいるかを表すバロメータのようにも思っていたし、とにかく外へ出て行くことが大切だったのかもしれない。夏が僕に与えてくれたものはとても大きい。
 今の生活を客観的に観察してみると、あまりそんなスタイルを続けているようには見えない。続けていないのか、続けられていないのか、という話になるとひと言では片付けられない。ただ、ここには、部屋に流れる空気を心地よいと感じる休日や、今、目の前の窓から静かに入って来た梅雨の曇った日の、すこし涼しい風にクチナシの香りを感じるような夕方がある。
 答えを出すつもりは無いし、第一、すぐに言葉で答えを出そうとするのは苦手だ。すこしだけ見え始めたものを目指していけば、あの頃のように期待以上の場所へ行けるのだろうか。そうやって歩いて来た先が今なのだとしたら。
 窓の外に緑が見える部屋はいいなあと改めて感じながら、友人へ季節のお便りのようなものを書こうと思っているところ。もうすぐ夏本番。