EARTHY

Polaroid taken by Mike in Topanga, CA 2012

 小屋の外に置かれたピクニックテーブルで朝ご飯を食べていたら、マイクがパンを地面に落とした。彼はすぐに拾い取ってフーッと吹いて口に入れた。日本では3秒ルールって言うんだよ、なんて話はしなかったけど、僕らがそのセリフを言いながらやるのと全く同じ感じだった。代わりに彼は、ニコッと微笑んでひと言「アースィ—」と言った。僕は聞いたことのない単語に「...何て言った?」と聞くと、地面を指差して"Earth"と言い、続けてゆっくり"Earthy"と発音した。トパンガキャニオンでの気持ちのいい朝に聞いたその言葉とやり取りは、そのまま気持ちのいい記憶として僕の中に穏やかに残っている。旅行から帰ってからそのことを思い出した時に、Earthyという単語は本当にあるのだろうかと思って調べたことがある。そしたら辞書にもちゃんと載っていて、自分が解釈していた意味そのままの説明が書かれていた。なんとなくつまらないことをしてしまったと思った。

しーまん

 僕には、カメラを向けたくなる人が三人いる。その一人が、友人である嶋田庸平、通称しーまんだ。しーまんとは共通の友人がいたこともあって、自然と近い存在になっていた。2~3年前から山師として、日々山へ入り林業に勤しんでいる。その一方で、彼はいつも太鼓を触っている。家に遊びに行くといろんな種類の太鼓が部屋に転がっていて、気付くとそのどれかを手に取って叩きはじめている。そんな彼の姿に、気付くと僕もカメラを手にしている感じ。そんなに毎回毎回彼の写真を撮り貯めている訳ではないけれど、プリントを整理していたら明らかに彼を撮ったものが多かった。彼に会ったことのある人はきっとあのまっすぐな気持ち、視線が印象に残るだろう。そして大きな手、その手のひらの分厚さ。近所の子どもにも好かれていて仲良しだという話を聞いたが、当然そうなるだろうと思う。
 不器用そうに見えるけれど、実は東京の有名芸術大学で建築を学び、その後また別の芸大の院に入って彫刻まで学んだしーまん。この頃は自分が山で伐って来た間伐材を使って、独特な家具作りも活発に行っているようだ。それに音楽の方も、だんだんミュージシャンたちとステージでライブをすることも増えてきているようで、そんな活き活きしている様子が耳に届くとなんとなく僕もうれしい。名古屋にいた頃のように頻繁には会えないけれど、ちゃんと繋がりつづけていることを感じられる大切な友人の一人だ。パートナーの緑ちゃんとは今年ついに籍を入れ、またひとつステップアップした感じ。そして、秋の初めに行われる予定の二人の結婚式、披露宴では、写真を撮ることになった。そういう依頼は自分の許容範囲外と思っていたけれど、僕の写真を気に入ってくれている二人だ。なにより僕のことをわかってくれている。その日も白黒フィルムでしか撮らない(撮れない)。カラーでいい感じの写真はきっと周りのみんなが頼まなくとも撮ってくれるだろうし。少なくとも彼ら二人には気に入ってもらえるような、他には無いものを作ってあげたい。なんて、ちょっとハードルを自ら上げてしまっているようだけど、僕自身も楽しみにしているのだ。しーまん、緑ちゃん、おめでとう。これからも末永くお幸せに。そして末永くよろしく。

Playing the djembe in the morning. 2012 Summer
Sea-man, Naoto and Hajime = "地球家族" 2010 Summer
Surf day with 地球家族 2010 Summer

SUMMER TIME



 先週末の土曜日から急に真夏になった感じがする。梅雨が明けて一気に猛暑日になった、という事実はもちろんあるけれど、葉山森戸の海の家oasisがオープンしたということも、そんな真夏を感じさせる大きな理由のひとつだ。そんなに頻繁に行けるわけではないけれど、神奈川で暮らし始めるようになってから、行こうというスイッチが入ればいつだって行けるようになった。oasisが無くてはならない、という多くの人々がいることを知っている。僕にとってはどっちかというと「oasisが無くてはならなかった」という感じ。あの夏のoasisとの、そしてoasisに集う人々との出会いは、僕にとって本当に大きな出来事だった。あの森戸海岸に今日も、夜な夜な彼らが集まって来ていることを想像するとなんとなく安心する。彼らに会いに行きたい。oasisが無くてはならない、とまで今の僕は言えないが、oasisがあってうれしいし、どこか「助かる」というような感覚もある。そんな場所が今年もまたそこに開かれているということを確認できた土曜日、なんともいえない気分になった。それが今年の、そしてもしかしたらこれから先も続いてゆく、真夏の始まりの合図のようなものかもしれない。
 写真は去年のもの。今年はまだ行けていない。

Topanga Night and Morning


 アメリカ旅行へ出る前に、トパンガキャニオンという、おもしろそうな人がすこし集まって来てそれぞれ小屋で暮らしている場所を知った。その中のひと際小さな小屋で暮らすのは、日本人の写真家、武藤アヤさん。いきなりの知らない男からの連絡にも関わらず、快く「是非遊びに来てください」という返事をいただいたときの静かな興奮を憶えている。たしか金曜の夜だったはずだ。簡単な夕飯は用意してもらえることになり、すこしだけ緊張しつつトパンガへ向かっていく夕方、「ビールだけ持って来て~」というメッセージが届いて一気に気持ちも緩み、いい夜を過ごせると思った。海岸通りからしばらく山道を上って行きiPhoneの地図が指す場所の近くへ着くと、言われていた通り真っ暗だった。道端に車を停めて電話をかけても出なかったので、しばらくウロウロしていると一台の車が近くに停まった。ただ真っ暗なので顔も見えず、アヤさんのことを知ってますか?と声をかけると、日本人の女性だった。思いがけず出会ったナツコさんもアヤさんのところに遊びに来たということで、後を付いて、ヘッドライトで足下を照らしながら歩いて行った。雑誌で見ていた小屋を目の前にして興奮しはじめていた僕を更に興奮させたのは、Kyle Fieldが居たことだった。このLittle Wingsという名前で活動しているミュージシャンのカイルを知ったのはそのわずか数日前のことで、YouTubeで観てすぐに好きになっていたのだった。アヤさんのパートナーだということは聞いていたが、その夜そこに居るとは思っていなかった。カイルがギターを弾くのを眺めたり、女性陣が夕飯の支度をしてくれているのをたまに覗きに行ったりしていると、すこしずつ彼らの友人が集まって来た。自然と焚き火がはじまり、その周りを囲んでそれぞれビールとホットドッグを手にしていた。気付くともう週末のホームパーティーという感じになっていて、けど僕はうまく会話にも入っていけず、淡々とビールを飲んでいたような気がする。その感じは日本での普段の暮らしでもそう変わらないので、そんな場所にいて右から左から聞こえてくる英語に耳を傾けているだけで自分としては楽しかった。そこにはサンフランシスコとLAのベニスビーチでGENERAL STOREを営む、画家のSerenaとその夫のMasonもいた。彼らはそのすぐ横の空き地に自分たちで小屋を建てているところだった。それからすこしすると仕事帰りのMikeが現れた。マイクもすぐ近くの小屋に住んでいるトパンガの住人だ。彼とは仲良くなれそうだなあ、なりたいなあと思わせるような、すごく気持ちのいい笑顔で挨拶しに来てくれた。オクラホマ出身のマイクはかつて自分のコーヒーショップも営んでいたことがあり、その後ポートランドで少し暮らした後にトパンガへ来て、今は少し車で走った先のマリブのコーヒーショップで働いている。フォルクスワーゲンの古いVanagonに乗っていることも僕を惹き付けた。
 夜が更けていくにつれ友人たちはそれぞれ帰って行き、トパンガの住人とお泊まり組だけが残った。その夜はテントをその辺に張って寝ようと思っていたが、結局マイクの小屋のソファで寝た。無意識のうちに飲み過ぎていたのか、朝目覚めると若干の二日酔いを感じた。それでもすぐに気分が良くなってくるくらいの、本当にきれいな朝だった。窓ガラスから差し込んでくる朝日で暑くなってきて、テラスへ出るともう、言うこと無しのBeautiful Morningだった。辺りを少しぶらぶらしていると、さっき自分がいたテラスでマイクが大きく伸びをして深呼吸しているのが見えた。コーヒーとエッグクロワッサンの美味しい朝食をピクニックテーブルでいただく。ゆっくり朝の時間を過ごしてから皆で海へ行った。

Topanga Canyon, CA Oct. 2012 


Kyle Field playing the guitar by the cabin.
Mike took deep breathes in the sunshine.
Kyle and Mike getting ready to go surfin'.

lazy am

 いつだってテンポよくきもちよく進んでいける訳では無いから、take it easyと言い聞かせてゆっくりする。理想を思い描いて夢を見て、きっとそれは実行していけると感じていても、今ではないということ。そこにすこし違和感を感じることがあっても、まず今できることをしていくしかない。やりたいことはやってきたつもりだし、それはこれからも変わらないはずだ。ただ、何も手に付かないような午前中は、こうしてコーヒーを何杯も飲んで人の写真を見て、思い描くだけ。小屋から出したネムが部屋を飛び回って、たまに肩にとまる。自分が今見ているのは、ひとりの若き写真家が日々旅をしているアメリカ。彼とは歳はそんなに変わらないようだ。いつか会えたらいいと思う。そろそろ午後からの仕事に出掛ける準備。ネムをスムーズに小屋に連れ戻すことができるだろうか。今は腕の上。たまに齧られながらタイプしている。