11/08/2012

Style Craft


 Sight Glass Coffeeは豆を深く焙煎することをしないらしい。先週まで泊まっていた宿が近かったこともあるが、サンフランシスコへ来てから何度か通っているコーヒーショップだ。スタイリッシュなのだけどお高い感じではなく、アコースティック。というのが僕がカリフォルニアのベイエリアに対して持っていたイメージだった。そして実際にこの土地へ来て見て回って、そのイメージしていたものを目の前に心地よく感じられることもよくある。それを選んで通ってくる客がまたその店のリラックスした雰囲気をつくっている。サイトグラスもそのひとつだ。コーヒーも美味い。けど、僕の好みにはすこし浅過ぎるかなというのが正直な感想。深煎りとまでいかなくてももうすこし香ばしいものが好きだ。けど今ここで書きたいのは、彼らのスタイルのこと。日本を出る前に手に入れた雑誌Casa  BRUTUSカリフォルニア特集号(Topanga Canyonのこともこの中で知った)にはこっちの最近のコーヒーショップに関する興味深い記事もあった。日本の焙煎家オオヤミノルさんがコーヒーショップを訪ねて行き、オーナーたちとコーヒー談議をしていくというもので、文章は岡本仁さん。写真は高橋ヨーコさんで、コーディネートをしたのはトパンガでお会いした武藤彩さん。その中のサイトグラスへのインタビューの中で彼らは、「深く焙煎すれば豆を炭化させると、シンプルに考えています。僕らはコーヒー豆の持つ美しさを表現したい」と言っている。それに対してオオヤさんの「深煎りでしか出せない味わいもあってそのふたつがどっちもおいしいなら、ローストの幅がある方があるほうがおもしろいんじゃないか」という問いへの彼らの答えが特に印象的で、それ以来心のどこかに残っている。「そのフレーバーの違いは僕らもわかっています。でも、僕らは1つの豆を5段階の焼き方に分けて、という方法は採りません。その中の1つを僕らの料理法として見極めて出しているんです。」
 すこし前に書いた、他の選択肢を持たないという選択、という自分の写真のことと関連づけるのは強引かもしれないが、そのひとつの選択に誇りを持ってプロフェッショナルな仕事をしていることにすごく惹かれるのだ。「一晩中でもその話を突き詰めたいと、オオヤさんは時間がないことをとても残念がった。」とその記事は結ばれているが、そのつづきは僕も本当に聞いてみたい。何か勇気づけられるような言葉をそこで聞けるだろう。そんな風に共感、尊敬できる人との共通点を(時にはすこし強引にでも)見出しては勇気づけられたり、うれしい気持ちになる。人のことが気になるこの性格は変わらないが、今のところは、たまにそうして自分の立ち位置を確認したりする。

 カメラはものごとの「なぜ」に答えるのに適した道具ではない。むしろその問いかけを喚起させるものだ。うまくするとカメラ特有の直感で、質問すると同時に答えを出してくれる。だからこそカメラを手に、そんな「偶然のシャッターチャンス」を求めて、私はあえて当てずっぽうに歩き回って来たのだろう。 ー Henri Cartier-Bresson

 以前も載せたブレッソンの言葉だがこれも、彼も当てずっぽうに歩き回っていたんだな!(もちろん翻訳される前にどんな言葉を使っていたか知らないけど)なんて、僕もそうしていきますなんて伝えたいような気持ちにさせてくれる。