11/30/2012

CARL

 いくつか状況が変わり、マリーとマイクのこのアパートに彼らが留守の数日間も居続けることになった。数日間のポートランドでの一人暮らし、という感じでこれはこれでわくわくする。正確には猫も一匹。エサをやることも仕事のひとつだ。さっそくパンやらすこし食材を買って来た。部屋の鍵は持っているがアパートの建物内に入るための鍵は持っていないので、同じアパートのカール(←リンク)が居ないと中に入れない。だから帰ってくると彼に連絡をして鍵を開けてもらう。彼は撮影に出掛けていない場合は大抵家にいるので、アパートの下から二階の彼の部屋に向かって名前を呼ぶと、かなりの確率で窓からひょっこり顔を出してくれる。その瞬間が結構好きだ。今日は昼間すこし出掛けている間から彼と連絡を取っていて、三時前に帰ると聞いていたのでその前に近所でサンドイッチを食べていた。そして食べ終えてコーヒーを飲みに行こうと外へ出たところで、これ以上無いというタイミングでカールと鉢合わせ、コーヒーを買って帰った。その足で彼の部屋までおじゃまして、ウェブサイトにアップしていない写真も見せてもらったりした。彼もまたストリートフォトグラファーで、ライカのM6を使っている。机にはポンとクラシックなカメラが置かれていたり、いくつものフィルムが並べられている部屋はいい雰囲気だった。他の写真家の裏話みたいなものを聞けるのは楽しい。英語での会話となると実際のところ理解しきれない部分もあるが、その分「だよね、だよね」と頷き合える時はうれしい。ウェブにアップしていない写真は、簡単に言えばウェブにアップすべきでないと判断された、ドラッグや暴力的なものを写したものだった。それは過去に彼が危険な土地へ出向いて費やした時間も思いも入っているもので、何より、僕らがなかなか見られないそんな一般社会から外れた人々の生活が写っている、すばらしいドキュメンタリーだった。ウェブにアップしない理由をもうすこし深く聞いたので、彼にそれを勧めることはしないが、いつかもっと公に発表すべきものだと思った。彼のウェブサイトで"EK"と題された写真群がその一部だ。帰るまでにもっとカールと写真の話ができたらいいと思う。彼とは何か分かち合えるものがもっとありそうだ。
 iPhoneのアプリでInstagramというのがあって、去年iPhoneを使い始めた時から利用している。写真の色調をすこし加工できてコメントを添えて投稿する、というTwitterの写真版のような感じだ。このブログに載せている写真も今のところほとんどはそのアプリで撮ったもの(そのうちたまにはスキャンでもしてフィルムでの写真も載せるつもり)。コメント無しの写真で何かが伝わってくることももちろんあるが、先日おもしろいと思ったのは、そのコメントが何か自分にも響くことを語っていると「いいね」を押したくなるのだ。それが一言だけだったらかっこいい。長文でも、そこにその人の生活の中での生きた声を聞けるようで興味深い。コメント次第で写真に写っているものに意味を見出すことになるという、先日のヴェンダースの本の話とも繋がるが、それを毎日みんなが遊びでやっているそんなアプリの中にも感じたことがおもしろかった。僕は人を撮るのが好きだけど、そこには絶対にその人の生活が写り込んでいてほしいと願う。と同時に、見る側になった時も、その人たちの生活を感じられる写真が好きなんだと改めて思う。こんなこと、何度も同じようなことばかり書いているような気もしつつ。

2012.11.29 Thu. evening wrote.