10/08/2012

Madrid, NM


"Java Junction" Madrid, NM

 ニューメキシコ州AlbuquerqueからSanta Feへはフリーウェイには乗らず、すこしだけ遠回りしてTurquoise Trailと呼ばれる州道14号線を走って行った。その日の朝にモーテルのロビーでたまたま見つけたチラシがその道を紹介するものだった。その名の通りかつてはターコイズ(トルコ石)が採れる地域だったらしいが、今はもうその沿線のほとんどはゴーストタウンになっているようだった。その中でMadridという町は観光地らしくショップやカフェ、ギャラリーが街道沿いに並び、路肩にはたくさん車が駐車されていて、店から店へと歩いている人たちがいた。そしてそのほとんどが紙コップを手にしていたのも印象的だった。スピードを落とし辺りを見回しながら一度町の果てまで行ったが、引き返して適当な空き地に駐車した。ちょうど隣に一台停まっていた古いピックアップバンの持ち主が戻ってきたので、ここに停めていいか確認した。僕のイメージする"カウボーイ"そのままの出で立ちで、年季の入ったヒゲをたくわえたおじさんだった。この町はきっとおもしろい、とわくわくが高まる。
 マドリッドはここ十数年で芸術家などおもしろい人たちが移り住んできて、また新しい時間、文化の流れが生まれている町なのだそうだ。確かに、いかにもアウトサイダーだなと感じさせる人をよく見掛けた。ニューメキシコの中の小さなヒッピータウンという感じだろうか。カメラと財布だけ持って町を歩く。午前10時、ちょうど店を開けているところだったギフトショップに入った。ひとつ大きなラグマットを気に入ってしまい、しばらく悩む。店員の女の子はさっき道の向かいの店で挨拶を交わした女の子だ。歳は同じくらい、今までに見たことのないほどきれいなエメラルドグリーンの目をしていた。話をすると僕が今回の旅で最後に行く、オレゴン州Portlandの出身だという。そんなことですこし会話をしながら、ずっとラグをどうしようか迷っていた。最高に好みの色と柄だが、2週間後にはまたバックパックでの旅になるのでこの荷物は大きい。結局、今は決められないからきっとまた来ると伝え、閉店時間を聞いて店を出た。その彼女もやっぱり紙コップを手にしていた。街道沿いの小さい町なので一通り見て回ってもそんなに時間はかからず、車に戻る前にカフェに寄った。JAVA JUNCTIONという、カラフルでゆるくてかっこいいセルフスタイルのカフェだ。みんなが手にしていたのはここのコーヒーだったのだ。常にお客がいて繁盛していたが、女性がひとりで切り盛りしていた。けれど忙しそうとか大変そうという雰囲気はなく、この店がもつ時間の流れの中で物事が動いている、という感じ。それにここには誰も急いでいる人はいない。店の二階ではB&Bも営んでいるようだった。オリジナルのグッズの数々にプリントされている言葉は"BAD COFFEE SUCKS"。いいカフェがあると安心する。自分の居場所ができる感じ。この旅の間、何度も改めて感じていることだ。
その日の夕方、サンタフェからの帰りにはやっぱりこの道を選んでまたマドリッドへ寄った。そして例の店へ行き、また悩む時間が始まる。小さなサイズの方にしようかとか、どうやってバックパックに括りつけようかとか。「本当に気に入ってるならその大きな方にすればいいじゃない。バックパックに括りつければ大丈夫。」と簡単にいう彼女は、僕のバックパックにはすでにテントと寝袋、あとサーフボードを車に取り付けているキャリアも括りつけなければならないことを知らない。気付いたら閉店時間まで悩み続けていたが、結局購入した。
 二日後、ニューメキシコの旅に満足し、再び西へと走り始める前にもう一度マドリッドへ寄った。ラグを買ったGhost Town Trading Postにも顔を出すと、この町に似つかわしいすこしファンキーでクールなおばさんがその日は店番をしていた。名前はBrent。そしてなんと彼女はSan Francisco出身だという。こんなニューメキシコのたまたま寄った田舎町で、気に入ったひとつの店の店員ふたりが西海岸のこれから自分が旅する町の出身だなんて。アメリカへ来ても、狭い世界だなあと感じることに。Brentも"Small world!!"と叫んでいた。さらに前回いた女の子の名前はStellaだと聞いたが、僕がアメリカへ来てから買ったスケボーのブランドはStella Longboardsだ。ご縁だなあとうれしくなり、自分の写真のzineを渡して、Brentも撮影させてもらった。zineも気に入ってくれて、そのときに入ってきたBrentの友人のヒッピー風のお兄さんは、「このレコードはボブマーリーか?この壁に吊るしてあるのはただのドライフラワーか?それともマリファナか?」と僕の写真を見ながらうれしそうに言ってきたり、そんな笑って話ができる時間が心地よかった。きっとここへもいつかまた来ることになるだろう。
この店の二人はもちろんそうだし、あとあのカフェも、どこかカリフォルニアの持つ雰囲気に似ていた。見えないところで何かが繋がっていること、そしてその何かの中に自分もすこし仲間入りしているような、その感じが旅の途中では特にうれしい。ロサンゼルスまで、寄り道もせずにまっすぐ走りつづけた。

Driving back to west.